もしもの時に備える成年後見制度

認知症やその他の病気、あるいは障害によって判断能力が低下すると、財産管理や契約、日常生活における様々な手続きに支障をきたす可能性があります。成年後見制度は、このような場合に備えて、判断能力が十分ではない方を法律的に支援し、保護するための制度です。特に、お子さんがいらっしゃらない方にとっては、将来の安心を確保するために検討すべき重要な制度と言えるでしょう。この記事では、成年後見制度について分かりやすく解説します。

目次

子供がいない方にとっての成年後見制度の必要性

お子さんがいらっしゃる場合、ご自身の判断能力が低下した際には、お子さんが財産管理や身上監護(介護や生活の手続きなど)をサポートしてくれることが多いでしょう。しかし、お子さんがいない場合、判断能力が低下した時に、誰に財産管理や身上監護を任せるのか、事前に決めておくことが非常に重要になります。成年後見制度は、このような場合に有効な制度です。

例えば、以下のような場合に備えて、成年後見制度は有効です。

  • 悪質な訪問販売や詐欺被害の防止:判断能力が低下すると、悪質な勧誘を断り切れず、不必要な契約をしてしまうリスクが高まります。成年後見人がいれば、不利益な契約を取り消すことができます。
  • 財産管理の適正化:預貯金の管理や不動産の管理など、ご自身での財産管理が難しくなった場合、成年後見人がご本人に代わって適切に管理します。これにより、財産の散逸や使い込みを防ぐことができます。
  • 必要な医療や介護サービスの利用:適切な医療や介護サービスを受けるためには、様々な契約や手続きが必要です。成年後見人がいれば、ご本人の意思を尊重しながら、必要なサービス利用をサポートしてくれます。
  • 施設入所や入院の手続き:施設入所や入院が必要になった場合、契約手続きや費用支払いなどを成年後見人が代行できます。
  • 各種行政手続きの代行:年金の受給手続きや、各種行政機関への申請など、煩雑な手続きを成年後見人が代行できます。

成年後見制度を利用することで、信頼できる人に財産管理や身上監護を任せることができ、将来への不安を軽減し、安心して生活を送ることが可能になります。

任意後見制度 – 自分の意思で将来のサポートを決める

成年後見制度には、「法定後見制度」「任意後見制度」の2つがあります。

  • 法定後見制度: すでに判断能力が低下している場合に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。
  • 任意後見制度: 判断能力が十分にあるうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ任意後見人(ご本人に代わって財産管理などを行う人)と任意後見契約を結んでおく制度です。

お子さんがいらっしゃらない方には、特に「任意後見制度」の利用をおすすめします。 任意後見制度は、ご自身の意思で、誰に、どのような支援をしてもらうかを決めることができるからです。

任意後見制度のメリット

  • 自分の意思を反映できる: 誰に後見人になってもらうか、どのような支援をしてもらうか(財産管理、医療・介護に関する指示など)を、ご自身で決めることができます。
  • 信頼できる人に任せられる: 親族、友人、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家など、ご自身が信頼できる人を任意後見人に選ぶことができます。
  • 財産管理や身上監護について具体的な要望を伝えられる: 財産の管理方法や介護が必要になった場合の希望などを、契約で定めることができます。
  • 契約内容を柔軟に変更できる: 判断能力があるうちは、任意後見契約の内容を自由に変更できます。

任意後見制度の手続き

  1. 任意後見契約の締結: ご本人と任意後見人候補者が、公証役場で任意後見契約を締結します。契約書は公正証書で作成する必要があります。
  2. 任意後見監督人の選任申立て: ご本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
  3. 任意後見監督人の選任: 家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見人を監督します。
  4. 任意後見の開始: 任意後見監督人が選任されることで、任意後見契約が効力を発揮します。

法定後見制度との違い – 家庭裁判所が後見人を選ぶ

法定後見制度は、既に判断能力が低下している場合に利用する制度で、ご本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。

  • 後見: 判断能力が欠けているのが通常の状態の方
  • 保佐: 判断能力が著しく不十分な方
  • 補助: 判断能力が不十分な方

法定後見制度では、家庭裁判所が最も適任と思われる人を後見人等に選任します。ご本人の希望を出すことはできますが、必ずしも希望通りになるとは限りません。

一方、任意後見制度では、ご自身があらかじめ後見人を選ぶことができます。ご自身の意思を反映できる点で、任意後見制度は法定後見制度よりもご本人にとって有利と言えるでしょう。

任意後見制度の利用を検討すべきケース

  • お子さんがいない、またはお子さんと疎遠である場合
  • 配偶者が高齢、または健康に不安がある場合
  • 将来、認知症などで判断能力が低下する可能性に備えたい場合
  • 財産管理や身上監護について、ご自身の意思を反映させたい場合

成年後見制度にかかる費用

成年後見制度を利用する際には、様々な費用がかかります。ここでは、任意後見制度と法定後見制度それぞれにかかる費用について、詳しく解説します。費用の目安を知ることで、ご自身の状況に合わせて制度を選択する際の参考にしてください。

任意後見契約にかかる費用

任意後見契約を締結する際には、以下の費用がかかります。

  • 公正証書作成基本手数料: 約11,000円(※公証人手数料は変動する場合があります。事前に公証役場にご確認ください。)
  • 法務局への登記嘱託料: 約1,400円
  • 収入印紙: 約2,600円
  • 書留郵送料、正本謄本の作成手数料: 所定の手数料
  • 戸籍謄本(ご本人): 所定の手数料
  • 住民票(ご本人、受任者): 所定の手数料
  • 印鑑証明書(ご本人、受任者): 所定の手数料

※上記の費用はあくまで目安であり、依頼する内容によって多少異なります。

任意後見人の報酬について

任意後見人の報酬は、契約時にご本人と任意で決定します。報酬額は、後見人の業務内容やご本人の財産状況などを考慮して、当事者間で取り決めることができます。

法定後見制度にかかる費用

法定後見制度を利用する際には、以下の費用がかかります。

  • 収入印紙: 3,400円 (保佐・補助の場合は追加あり)
  • 郵便切手: 3,220円(保佐・補助の場合4,130円)
  • 戸籍謄本(ご本人、申立人、後見人等候補者): 所定の手数料
  • 住民票(ご本人、後見人等候補者): 所定の手数料
  • 登記されていないことの証明書(ご本人): 300円
  • 診断書: 医療機関ごとの所定の金額
  • 鑑定料: (後見・保佐で必要な場合) 5~10万円程度

※申立て書類作成を弁護士や司法書士に依頼する場合は別途手数料が必要になります。

法定後見における後見人等の報酬の目安

管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額) 成年後見人/保佐人/補助人 成年後見監督人/保佐監督人/補助監督人/任意後見監督人 備考
1,000万円以下 月額2万円 月額1万円~2万円
1,000万円を超え3,000万円以下 月額3万円~4万円 月額1万5千円~3万円
3,000万円を超える 月額5万円~6万円 銀行等による

※上記はあくまで目安であり、実際の報酬額は家庭裁判所が決定します。詳しくは家庭裁判所にご確認ください。

後見制度支援信託に関する費用について

後見制度支援信託を利用する場合、信託契約にかかる費用や、専門職後見人への報酬、裁判所への定期報告にかかる費用が発生する場合があります。詳しくは、信託契約を締結する金融機関や専門家にご確認ください。

任意後見監督人の選任・報酬に関する費用

任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる際には、以下の費用がかかります。

  • 収入印紙: 2,220円
  • 郵便切手: 3,220円
  • その他: (診断書、戸籍謄本等)所定の手数料

※上記の費用は目安であり、実際の金額は状況により異なります。詳しくは家庭裁判所にご確認ください。

任意後見監督人の報酬の目安

任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所がご本人の資産状況を考慮しながら決定します。詳細は、家庭裁判所にご確認ください。

任意後見制度の注意点

任意後見制度を利用する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 制度利用への理解: 周囲の理解が得られない場合もあるため、専門家のサポートが有用です。
  • 任意後見人の選定は慎重に: 信頼できる人を選ぶことが非常に重要です。

後見等事務の適切な遂行のために – 家庭裁判所のサポート

家庭裁判所は、成年後見人等による事務を適切に行うため、以下のようなサポートを行っています。

  • 後見監督人等の選任: 複雑な事案では専門職を後見監督人等に選任します。
  • 後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の利用の検討: 財産管理の負担軽減と適切な管理促進を行います。
  • 定期的な報告の実施: 定期報告を求め、指導や助言を行います。
  • 情報提供: 裁判所ウェブサイトなどでわかりやすい情報を提供しています。

相談窓口

まとめ

成年後見制度、特に任意後見制度は、お子さんがいない方にとって将来の安心を確保するための有効な手段です。ご自身の意思を反映し、信頼できる人に財産管理や身上監護を任せることで、判断能力が低下した場合でも安心して生活を送ることができます。

成年後見制度の利用には費用がかかります。本記事を参考に、ご自身の状況にあわせて制度をご検討ください。手続きは複雑なため、専門家に相談し、ご自身の状況に合った契約内容を検討することをおすすめします。

※本記事は、成年後見制度に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の状況に応じた法的助言を行うものではありません。最新の情報については、必ず関係機関にご確認ください。

当事務所の無料相談はこちら

当事務所では、相続の専門家が初めての方にもわかりやすいご相談を提供しています。
初回の面談に限り、無料で相談に対応させていただきますので、是非ご予約ください。

    相続発生前である(遺言・遺贈寄付のご相談)既に相続が発生している(相続税申告のご相談)不動産売却・不動産査定のご相談その他

    お急ぎの方は 0120-339-719 までご連絡ください。

    著者情報

    佐治 英樹(さじ ひでき)
    佐治 英樹(さじ ひでき)税理士(名古屋税理士会 登録番号_113665), 行政書士(愛知県行政書士会 登録番号_11191178), 宅地建物取引士(愛知県知事), AFP(日本FP協会)
    「税理士業はサービス業」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
    趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。
    PAGE TOP